2007 年 2月号 

  1. MSのMRI-1
  2. IFNβ1a(Rebif)による自己免疫疾患の誘導
  3. MSでもQOLの議論が盛ん  
  4. CD11chighMS患者はCD11chowMS患者より免疫学的に活性
  5. 腸管免疫の変化はMS患者増加の原因?
  6. MSでは悪性腫瘍の頻度は高いか?
  7. PPMS
  8. MSはハイソの病気
  9. NMO/Devic病を自然発症するマウスモデル
  10. CIDPの新しい診断基準
  11. 10代のPolyneuropathyの原因
  12. 皮下注射後、揉んだほうがよいか?
  13. Neuropathic painに対する治療
  14. HTLV-1 neurological complex
  15. Dr.夏井の褥創治療
  16. 深在性真菌症の血清学的診断法
  17. 皮下に刺激性注射液が漏れた場合の対処法
  1. MSのMRI-1
    MSの再発または病態進行を抑制する効果の期待される薬剤の臨床試験では、Gd造影病変は海外では必須の評価項目となっています(N Engl J Med 348:15-23, 2003; Ann Neurol 56:864-7, 2004)。  

    また、Gd造影病変はMSの活動性を示す現時点では最も優れた指標ですが、臨床症状とは必ずしも相関はしません。その理由としては、
    1. 臨床的に再発するには、病変部位の解剖学的な局在と大きさに左右されるため。MRIで新たに見いだされるGd病変は、臨床的な再発頻度の5-10倍あるとも言われています。
    2. 通常、造影MRIでルーチン検査として定量するのは脳MRIですが、脊髄や視神経病変の評価ができないため。
    3. 重症度のscoreとしては、KurtzkeのEDSSが最も良く利用されていますが、認知機能や上肢の運動機能が評価されず、NMO/OSMSでは失明することがありますが、視力低下の重みが充分とは言えない、といった理由が挙げられています。

    最も臨床症状の悪化及び脳萎縮の程度の予測性が高かったのは、T2画像病巣で、次にGd造影病巣、再発頻度の順だった、という報告があります(Ann Neurol 56:548-55, 2004)。

    個人レベルで見ると、Gd造影病巣数および月次変動が激しいため(Multipl Scler 2:198-205, 1996)、個人レベルのGd造影病巣数の経時的変動をそのまま利用した前後比較試験による一般的な薬効評価は難しいと言われています。しかし、一定数以上のRRMS患者を集団として診た場合の総Gd造影病巣数、患者一人あたりの平均Gd造影病巣数は、一年程度の短期間であれば、比較的安定しているとも言われているため(Multipl Scler 2:198-205, 1996; Ann Neurol 49:290-7, 2001; N Engl J Med 348:15-23, 2003)、これを利用して臨床研究が可能です。再発頻度の変化で評価せざるを得ない場合もありますが、よほど変化が著明でないと評価が難しいことは、日頃、再発なのか否か、困ることが少なくない現場の医師には日常的に良く理解できるでしょう。再発頻度を指標とした場合の客観的な根拠が難しいため、MRIを評価基準とすることの重要性が良く判るでしょう。
  2. IFNβ1a(Rebif)による自己免疫疾患の誘導
    IFNαにより4から19%で自己免疫疾患(最も多いのは自己免疫性甲状腺疾患)が出現することが知られていますが、IFNβでも自己免疫疾患が誘導されることが知られています。2006年11月末から当院ではIFNβ1a (Avonex)の投与が始まりました。登録制のため、第1例から4例まで初日で当院から登録されました。全国第1例に当たった患者さんは喜んでいらっしゃいました。カナダから同じIFNβ1aのRebifによりmonoarthritisとautoimmune thyroid diseaseをきたした2例が報告されました(Scand. J. Rheumatol., 34:485-8, 2005)。今までに6例の関節炎の報告が文献上あるそうな。
  3. MSでもQOLの議論が盛ん です。QOLを評価するスケールとしては・・・
    MSQoL-54     1995年
    FAMS         1996
    MSQLI        1997
    MSIS-29       2001
    Leeds MSQoL    2001
    (Int. MS J., 13:92-99, 2006)   
  4. CD11chighMS患者はCD11chowMS患者より免疫学的に活性はCD11chowMS患者より免疫学的に活性である、という報告が神経センターの山村先生のラボから報告されました(J. Immunol., 177:5659-67, 2006)。すでに彼らはMSの寛解期のNL細胞はIL-5産生性で、CD95が過剰に発現しており、この細胞はin vitroでTh1の活性化を阻害するNK2細胞であることを示しておりました(J. Clin. Invest., 107:R23-9, 2001)。もともと樹状細胞(dendritic cells: DC)のマーカーであるCD11cはNK細胞(bitypic NK/DC cells)にも発現していますが、disease-protective NK2 phenotypeはCD11clow。IL-5はCD11chighをdown-regulateしていて、IL-15はNK細胞のCD11cをup-regulate。CD11chighを示したMS患者の10例中6例では120日以内に再発が認められ、CD11chighMS患者はCD11chowMS患者より免疫学的に活性であることが示されました。
  5. 腸管免疫の変化はMS患者増加の原因?
    腸の細菌そうの変化が免疫制御細胞の機能を変化させ、MS患者数が増加したのではないか、と考えられ始められていますが、その基礎的な根拠の一つが山村先生らによって示されました(Nat. Immunol., 7:987-94, 2006)。  
    Vα19-Jα33 T細胞受容体α鎖(Vα19TCR)を有するT細胞(ヒトではVα7.2-Jα33 TCR: Vα7.2TCR))は腸管に多く、腸管免疫に関与しています。MSの病変部位ではVα7.2TCRが過剰に表出していて、中枢神経内での炎症を調節しているのではないか、と考えられていますが、もう一つの変わったT細胞であるVα24TCRはほとんど認められないそうであります。EAEではVα19TCRを過剰発現させると重症度を抑制しますが、これはおそらくB細胞によるIL-10産生を介していると考えられています。一方、Vα19TCRを欠損させると、EAEが増悪するので、ヒトではVα7.2TCRが新たな治療のターゲットになると報告しています。つまり、この細胞を増やすか機能を上昇させるような治療を行うことでMS治療が可能になる、というもの。
  6. MSでは悪性腫瘍の頻度は高いか?
    最近でもこれをテーマにした報告はありますが、それは免疫抑制剤による影響の有無を調べたもので、本来のMS自体での合併頻度の報告もあるようで、こんな時代に報告があります。”malignancies were reported to be no higher amongst multiple sclerosis than in the normal population” (Palo J., et al. J Neurol 216:217-22, 1977)  

    この項目を書いた後に、偶然に次のような報告を発見しました。今まで、MS患者さんでは乳癌(Int. J. Epidemiol., 32:218-24, 2003)、前立腺癌(Br. J. Cancer, 82:1358-63, 2000)、腸癌(Scand. J. Soc. Med., 23:110-20, 1995)の頻度が多いという報告が出ていますが、デンマークでのpopulation-based register studyの報告が出ています(Int. J. Cancer, 118:979-84, 2006)。MS患者さん全体では悪性腫瘍のリスクが高いということはないという結論でした。ただ、女性ではわずかですが乳癌の頻度が高い傾向があったそうです。MS患者ならば病院で診療を受ける機会は多いので、発見しやすいだろうという可能性はありますが、一般の患者での乳癌よりは診断時での乳癌の大きさが大きいので、そのようなバイヤスはないと考えられるそうな。また、最近、solar radiation(これって、日焼けサロンみたいな意味でしょうか?)はMS発症を予防するという報告が出ていますが(J. Epidemiol. Community Health, 58:142-4, 2004; Occup. Environ. Med., 57:418-21, 2000)、今回のデンマークでの調査では皮膚癌の頻度が低いということはなかった、と。
  7. PPMS
    学会などでは見たことはありませんが、こんな本も出ていることを知りました。すでに絶版で入手は現在不可。Primary progressive multiple sclerosis, by Filippi, M., Springer-Verlag, 2004. ISBN: 8847001676
  8. MSはハイソの病気
    MSは田舎よりは都会の住民に多いという報告がありますが、high socioeconomic statusの住民に多いと言われています(Am. J. Epidemiol., 91:119-22, 1970)。
  9. NMO/Devic病を自然発症するマウスモデルが報告されています(J. Clin. Invest., 116:2385-92, 2006; (J. Clin. Invest., 116:239-402, 2006)。抗原はMOGで、T細胞とB細胞の両者が関与しているようです。
  10. CIDPの新しい診断基準
    ヨーロッパ連合神経学会と末梢神経学会の共同作業部会から新しいcriteriaが発表され、紹介されています(脳神経, 58:771-7, 2006)。
  11. 10代のPolyneuropathyの原因 をまとめた報告がアテネ大学から出ています(Neuromuscular Disord., 16:304-7, 2006)。20年間におよぶ13から19歳の自験45例のまとめで、男性が32例。神経生理学的には、distal symmetric sensorimotoe polyneuropathyが38例と最多で、3例がsymmetric sensory polyneuropathy、asymmetric sensori0motor polyneuropathyとmononeuropathy multiplexが2例ずつ。原因としては、
    HMSN type I
       type Ⅱ
       type ⅢI
    11例
     6
     2
    Friedreich ataxia  6
    Hereditary neuropathy with liability to pressure palsy  1
    Roussy-Levy syndrome  1
    CIDP  9
    Hereditary metabolic disorders MLD, ALD, Porphyria, Fabry disease  4
    Toxic  2
    Vasculitic  2
    小児と類似していて、成人とは異なり、HMSNの割合が高く、小児とは違ってCIDPが多いことが特徴。  

    これとは対照的ですが、74例の小児例をまとめた報告が最近あって(Pediatr. Neurol., 35:11-7, 2006)、
    Acute axonal polyneuropathy    32例
    Chronic axonal polyneuropathy   16
    Demyelinating motor and sensory polyneuropathy  13
    Pure sensory polyneuropathy    11
    High-low syndrome*          2  
    Pure sensory polyneuropathyでは糖尿病が最多で(82%)、Acute axonal polyneuropathyの中ではVincristineなどによるtoxicが最多(56%)。  
    * 最近、注目されている病態だそうで、”relatively unresponsive even to stimuli of long duration and high voltage, motor amplitudes low, prolonged latencies, slowed motor velocities, absent sensory responses, and normal needle electromyography
    (Neurology Alert, 25:6-7, 2006より)”  
  12. 皮下注射後、揉んだほうがよいか?

    一般的に、皮下注射や筋肉内注射部位を揉む目的は、
     1). 薬剤を速やかに吸収させるため
     2). 局所での薬剤貯留による局所反応軽減のため  
    DPT(ジフテリア・百日咳・破傷風)のようにアジュバントが添加され局所に滞留するようになっていたり、インスリンのように急速に血中濃度が上昇することは避けたい場合は揉まないほうがよいとされています。。  

    ベタフェロン皮下注射後、揉まないほうが良いか?という問題については、  
    一般的にワクチン注射の場合は、揉んでも揉まなくても、リンパ球の反応や局所の皮膚反応に差はなく、積極的に揉む理由はないとされているようです。  
    逆に、皮下注射の場合、
     1). 皮下組織を傷つけるおそれ
     2). (筋注の場合、)血管を損傷し、血液中に入ってアナフィラキシーショックを起こす可能性  
     3). かえって局所反応を拡大させてしまう可能性
     4). 注射部位が浅い場合、体外に注射液が漏れてしまうおそれ
     5). 小児の場合、疼痛を惹起してしまう可能性
    が指摘されています(医事新報, 4116:111-2, 2003)。ベタフェロンの発売元であるシェーリングは公的には4)を理由に挙げて、軽く揉んで下さい、揉み過ぎると漏れ出てしまいますと指導しているようです。


  13. Neuropathic painに対する治療

    昨年(2006年)、日本でも漸くGabapentinが抗痙攣薬として市販されて利用できるようになりました。57例を対象にrandomized, double-blind trialが行われ、GabapentinとMorphineのそれぞれ最大量よりもそれぞれの適量を併用した方が、同等かより効果的であることが証明されました(N. Engl. J. Med., 352:1324-34, 2005)。(Clin. Briefs in Primary Care, 10(6): 12, 2005)


  14. HTLV-1 neurological complex

    Myopathy
    Polyneuropathy
    Dysautonomia
    ALS-like
    Cognitive deficits
    Others?
    (Lancet Neurol., 5:1068-76, 2006)


  15. Dr.夏井の褥創治療

    医療法人慈泉会 相澤病院傷の治療センター・夏井先生のご講演の資料を当院整形外科の安東医師より入手いたしました。むしろレジデントに方々はよくご存じのようですが、マンガのモデルにもなった有名な外傷治療の専門家で、「傷は消毒するな」という治療方針の方で、確かにこのほうが治りは良いんだそうな。「水による物理的除菌は皮膚を損傷せず,外来菌のみを除去できる安全な除菌法である。消毒薬による化学的除菌は外来菌も皮膚常在菌も殺菌し,皮膚そのものも障害するため,安全な除菌法ではない。」と。  

    表現も「革新的」で、これからの傷の治療の常識は、
     1). 傷は乾かすと治らない。
     2). 消毒すると傷が化膿する。
     3). 傷・縫合創,ドレーン刺入部は洗ってよい。  
    新鮮皮膚外傷の治療法としては、
     1). 創面は消毒しない。創面に入れてよいのは眼に入れても安全なもののみである。
     2). 単純な切創,挫創,擦過創では創周囲の皮膚の汚れを拭いて落とすのみでよい。
    といった具合。乾燥させてはいけない、ガーゼはかえって治りを遅くする、といった理論的・経験的背景もあるようです。採血前や皮下注射前の皮膚消毒も不要、と。


  16. 深在性真菌症の血清学的診断法

    1). β-D-グルカン  
    接合菌を除く全ての真菌が対象で、治療開始の指標として重要。血液透析患者、ガーゼが影響するので外科手術後、γグロブリンなど血液製剤、グルカン含有薬品投与患者、ニューモシスチス肺炎で擬陽性になる。
    2). ガラクトマンナン抗原  
    侵襲性アスペルギルス症の診断にきわめて有用。症状が類似しているのにこれが陰性の場合は、接合菌症やフサリウム症を考える。βラクタム系抗生剤、腸管由来のBifidobacteria、パスタやシリアルなどの影響による擬陽性に要注意。
    3). クリプトコッカス抗原  
    播種性トリコスポロン症では交叉抗原のため擬陽性を呈することがある、と。
    (医事新報, 4305:86-7, 2006)


  17. 皮下に刺激性注射液が漏れた場合の対処法

    血管外に漏れてしまって、ヘタをすると壊死になってしまう、なんていう場合、漏れた直後に炎症を抑える目的で以下のような2種類の対処法があるようです。
    1). ソルメドロール40mgを生食5mlとともにその部位に皮下注。
    2). ケナコルトA注射を1筒をその部位に皮下注射。