2006 年12 月号
- 第5回MSワークショップ
- NMO IgGの対応抗原はaquaporin-4 water channel
- Aquaporin-4
- MSでのステロイドパルスの目的と機序
- MSに対するIFNβ1bの期待できる効果
- MS全国調査結果
- 女性で膠原病、特にシェーグレン症候群
- 視神経脊髄型MSに関するシンポ
- モノクローナル抗体による治療
- 定期パルス
- CNS SjSとMSの鑑別は困難
- 抗ガングリオシド抗体とニューロパチー
- Parry-Romberg syndrome
- 2006年神経治療学会から
- 第5回MSワークショップ
最初に座長の東北大・藤原助教授によるAQP-4のmini-review。AQP-4が高濃度に脳内に発現している部位は、hypothalamic
region、periaqueductal regionに。SLEや3椎体以上の脊髄病変のないシェーグレン症候群ではNMO IgGは陰性。フランス、スペインのグループで蛍光抗体法により抗AQP-4抗体が測定されている、と。
新潟大学・田中恵子助教授により日本人例での抗AQP-4抗体データが報告。陽性例の特徴は、
LCL 39/39例
男性 0/39
EDSS 6.8±2.7
大脳障害 16/30
失明 16/32
自己抗体 6/14
OCB in CSF 3/7
東北大学・三須先生から剖検したNMOの症例報告がありました。AQP-4は、そもそも脳、網膜、鼻腔、気管、脊髄、腎、腸、筋に存在。なぜ、抗AQP-4抗体陽性例では腎障害が起きないのか、不明です。GFAPで染色するとアストロサイトは存在しているのに、患者さんではAQP-4は染色されない、と。Classical
MSではAQP-4の染色性が消失することはないそうな。山口大・神田教授は、AQP-4の染色性低下は、LPSをかけただけでも消失し、強い炎症の結果でも起こり得ることを紹介。
慶応大学薬理学・安井正人先生は「脳のAquaporin」と題して基礎的review。AQPは細胞膜に存在。水分子を介して、プロトンは一瞬に移動できる。これほど速い伝達機構はないので、生体内に存在しているに違いないと想像している、と。AQPのチャネルではこのプロトンの移動ができなくなっていて、一瞬、水分子の一つが上下から切り離されて分離される。これによりプロトン移動ができなくなり、水のみがチャネルを通れる。
阪大の仕事で、AQP 7 KO miceは加齢で肥満となって、2型糖尿病になる。
AQP-4の脳での局在がカラー写真でNielsen (1997)に示されている。
AQP-0は水を通さず、細胞接着機能しかない。これが機能しないと白内障になる。これほど強く結合はしないが、くっついたり離れたりしているらしいが、AQP-4にも細胞接着機能はある。AQP-4同士がくっつく。
MS以外でのAQP-4は・・・
① 福山型ではAQP-4が筋で発現していない。
② 理研のIwamoto, Katoらが躁鬱病でAQP-4が関与していることを報告(2004)。
- NMO IgGの対応抗原はaquaporin-4 water channelという報告が出ました!(J. Exp. Med., 202:473-7, 2005) すでに、Dr. Vanda A. LennonはNeuromyelitis
opticaの患者血清中にはマウス中枢神経の微小血管の内腔側に結合するIgG抗体が、NMOの73%、視神経脊髄型(東北大例)の58%に認められることを報告しています。このとき、lamininと部分的にcolocalizeしていることを示していました(Lancet,
364:2106-12, 2004)。
このNMO IgGは中枢神経だけでなく、腎や胃粘膜とも反応するため、aquaporin-4が抗原として候補に挙がりました。で、AQP4-transfected
cellsの細胞表面にNMO IgGが結合することが示されました。
世界で二番目、我が国で初めて新潟大学脳研究所神経内科・田中恵子助教授が、宇多野病院MSセンターの田中正美と共同研究にて、この抗体の測定系を確立し、日本人のデータについて、平成17年度神経免疫研究班班会議および2006年3月に名古屋で開催された日本神経免疫学会で発表しました。
- Aquaporin-4について、2006年の神経治療学会で会長の若山教授による会長講演がありました。もちろん若山先生ですからMSとの関連ではなくて、筋ジスとの関連。ですが、MSとの関連で注目されていますので、MSに重点を置いた会長講演でした。
AQP-4が発見されたのは1994年。AQPは0から12まで13種類が知られています。AQP-0, 1, 2, 4, 5, 6, 8は水分子に特異的。しかし、AQP-1はグリセオールや尿素など非イオン性中性の水分子も通すそうな。
AQP-4 trangenic mouseを作製すると、筋に過剰発現が認められますが、脳には発現してこないそうであります。
一般に、脳浮腫の種類としては、
① vasogenic
stroke, tumor, abscessで認められる
② cytotoxic
hypoxia, 水中毒 (AQP-4を通じてastrocytes中心に細胞が腫大)
③ interstitial
水頭症など。
- MSでのステロイドパルスの目的と機序
神経治療学会での金沢医大の松井教授によるランチョンセミナーで。再発時、始めから極期にどこまで進展するかが決定されているので極期の症状を軽減はしない。しかし、回復を早める。機序としては、
① 中枢神経へのリンパ球侵入抑制
② TGFβを産生するTh3を活性化させる、など。
- MSに対するIFNβ1bの期待できる効果
上記の松井先生のセミナーから、まとめておきましょう
① 再発回数を30%減少させる。Stone, LA (1995)によれば、投与開始した次の月から造影病変を減少させる。
② SPMSへの進行を抑制
③ CISからMSへの進展を抑制
④ 脳萎縮の進行を抑制
- MS全国調査結果が九大から断続的に報告されています。日本人MS130例に対してMcDonald/Barkhof診断基準を適応しますと、以前から言われていることですが、OSMSではそのMRI診断基準を満たすことはできません。では、どういう条件を設定すればよいのかは今後の課題ですが、もうそろそろ外国から診断基準を出されてから検討するのではなくて、こちらから作製するべきでしょう。
LCL病変そのものは頚髄から胸髄までびまん性に存在しているけれども、造影病変は上位胸髄に集中。たまたまということはないはずで、脱髄病変は脊髄のどこでも起こり得るけれども、上位胸髄に病変を形成する頻度が高いということでしょう。
sagittal sectionのFLAIR画像で脳梁底部に帯状に認められる病変をrim-like lesionと呼んでいますが、LCL陽性患者では前角周囲に多いそうな。
LCL病変のないOSMSの中には、10年経過しても30%は脳病変を呈さない一群があるそうで、このpure OSMSともいうべき存在は貴重。
- 女性で膠原病、特にシェーグレン症候群の合併頻度が高く、3椎体以上の長い脊髄病変があって、IFNbの効果が低い、という一群が存在していることが全国疫学調査で明らかとなり、第47回日本神経学会総会で報告されました。シェーグレン症候群の臨床像は様々で、抗体が陰性のこともありますが、口唇生検を行いますと、所見を見いだせるそうですし、ステロイド剤が投与された後でも検査で見いだせるそうです。これは、もっとも典型的な臨床像で、このグループを代表する中核的臨床像は長い脊髄病変と考えられます。当院からLCL
MSとしてまとめて報告している一群であります。
- 視神経脊髄型MSに関するシンポが第47回日本神経学会総会で開催されました。
九大の吉良教授は2004年の全国調査での有病率では10万人あたり7.7人と増加していること、女性患者の割合が増加していること、視覚・脊髄障害の程度が軽症化していること、高齢発症患者では進行が早いことを示し、OSMSの30%では頭部MRIで脳病変が存在しないことを報告しました。吉良先生も4型に分類しましたが、メモしなかったので・・・
最近、概念が混乱しているOSMS/NMOについて、深澤先生は温州みかんもオレンジだと、歴史的に両者は同じ疾患のはずであることを紹介し、病変分布と病変の激しさとで4型に分類。前者により限局した病変を呈する病型としてOSMS/NMOとNon-fluminant
OSMSがあり、広範な病変を呈するタイプとしてはConventional MS (Fluminant non-OSMS)とClassical
MSに分かれ、それぞれ前者のほうが病変が激しいことになります。難しいですねえ。
東北大の藤原助教授も4型に分類。Conventional MS=classical (CMS)+Non-CMS (NMO)。もう一つは、OSMS=NMO+MS-OS
presentationというもの。
判ります?MS-OS presentaionというのは同大の中島先生がいくつかの医療機関との共同研究で出した病型で、OSMSの病型をとりながら、将来CMSになる可能性のある一群が存在している、という結果に基づいています。ただ、この研究は経過を見て判断したものではないので、今後本当にCMSになるのかどうか、検討を要します。Non-CMSと言っているのは、3椎体病変以上の脊髄病変を有するLCL
MSで脳病変を呈した患者群のことでしょう。ただ、この患者群をCMSの仲間のように取り扱うことには抵抗があります。基本的に、病態はNMOと同じはずですから。ということを当院から報告しています。また、藤原先生は脊髄液中のNeurofilament
heavy chainでneuroaxonal damageを検索できることを紹介し、ALSで高値を示し、NMOの25%で高くなり、RRMSでは正常。2001年にMiyazawaが世界中の症例報告を集めて検討した結果、monophasic
NMOの発症は5-9歳が多く、1.4:1で男の子に多い。51.1%はpostinfectionで、視神経と脊髄病変の間隔は4ヶ月。
さて、最後に当院の齋田院長からLCL MSについて紹介がありました。手前みそにはなりますが、これが最も単純でわかりやすい。LCL MSではベタフェロンの効果が悪いことが示されました。また、ステロイド依存性MSになった当院の9例の解析では、うち8例がLCLであったことが示されました。これはびっくりでしょ?この結果には意味があると思われます。ちなみに当院ではパルス後に経口ステロイドを投与はしていません。なのに・・・
- モノクローナル抗体による治療がRAを中心に進歩しつつあります。
- infliximab (インフリキシマブ) 抗TNFa抗体のハイブリッド抗体。RAで効果は全例に認められず、有害事象が重篤。
- adalimumab (アダリムマブ) 完全ヒト型抗TNFa抗体
- golimumab (ゴリムマブ) 完全ヒト型抗TNFa抗体で、皮下注射可能となった抗体。
- tocilizumab (トシリスマブ) 抗IL-6Rヒト抗体
- abatacept (アバタセプト) CTLA4-Ig T細胞にnegativeなsignalを入れたり、CD4+CD25+細胞を活性化することで治療効果。
- ベリムマブ 抗BLyS抗体
- IDEC-131 抗CD40L抗体 CD40LはCD154のこと。活性化T細胞表面のCD40Lを抑制。
- rituximab (リツキシマブ) B細胞を消失させる。
- epratuzumab (エプラツズマブ) B細胞表面のCD22と反応。
- daclizumab (ダクリツマブ) ヒト化抗IL-2Ra
- efalizumab (エファリツマブ) 商品名はRaptiva ヒト化CD11a(LFA-1a)
- natalizumab (ナタリツマブ) 商品名はTysabri ( タイサブリ) 抗VLA-4
- alefacept (アレファセプト) recombinant LFA-3/IgG1 fusion protein
MSでもrituximab、daclizumab、natalizumabが使用されています。 (最新医学, 61 (5), 2006
- 定期パルス
少し古いですが、当院でもやっている治療法。4ヶ月ごとにステロイド・パルス(1g/day for 5 days)を行うことで、T2強調画像で認められる脱髄病変の拡大や再発率を抑えることはできませんが、T1強調画像でblack
holeとして認められる壊死病変の拡大や脳萎縮の進行を抑制できる、と言われています(Neurology, 57:1239-47, 2001)。
- CNS SjSとMSの鑑別は困難
軸索が変性しているからMSは否定的であるという誤解がまだあるようですが、脳生検で軸索変性があっても何とも言えません。PSL依存性を示すMSがありえますし、OSMS/LCL-MS
(NMO)(厳密に言いますと、これらは微妙に異なりますが)やPPMSではシェーグレン症候群の合併率が高いと言われているので、ますます両者の鑑別は困難。ステロイドが投与されていても、口唇生検で診断は可能だそうですが、気軽にはできませんねえ。
SjSでは中枢の神経症状は血管炎によると考えられていますから、ニューロパチーの合併の有無はポイントの一つ。IVIgへの反応性も絶対的ではありませんが、効果があった場合は参考にはなるでしょう。炎症の場が動脈なのか静脈なのかがMRI所見で推定できれば、両者の鑑別に利用できるでしょう。脳梁病変の評価は注意が必要なようです。rim-like
lesionは脳梗塞でも見られますが、sagital sectionでの脳梁での縦に炎のように燃え上がるような病変は、MS的と言えるように思われます。
- 抗ガングリオシド抗体とニューロパチーと題して、獨協医大の結城助教授のランチョンセミナーが第47回日本神経学会総会で行われました。その中から・・・
抗GM1抗体陽性のGBSではplasmapheresisよりもIVIg、さらにIVIg+ステロイドパルスのほうがより早く良くなるそうで、これは末梢神経に結合している抗体を効率よく剥がせるからではないか、と。補体を不活化するためか、IVIg
prevents axonal degenerationという機序もあるかも、と。また、生化学的には運動神経にも感覚神経にもGM1は存在しているが、運動神経だけが傷害される機序は判ってはいないものの、AMANのウサギ動物モデルでは前根にIgGが結合しており、後根には結合していない。感覚神経には結合し難い機序があるのかも、と。千葉大の桑原助教授によれば、C
jejuni感染はAIDPを起こすことはなく、全例AMANだそうです。
- Parry-Romberg syndrome
筆者は秋田日赤時代にこの患者さんを見たことがありますが、こんな名前が付いているなんて知りませんでした。若い女性でしたので、ちょっと気の毒でした(だって、これがなければ結構きれいな方でしたから)。別名、Progressive
facial hemiatrophy。
その特徴と頻度は・・・
Facial hemiatrophy of fat, skin, connective tissue, muscle, and/or bone
(100%)
Hemiatrophy of contralateral or ipsilateral arm, trunk, or leg (20%)
Atrophy of tongue (25%)
Dental abnormalities (50%) and trismus/jaw symptoms (including hemi-masticatory
spasm) (35%)
Migraine/facial pain (45%)
Ocular abnormalities including globe retraction, uveitis, papillary abnormalities,
restrictive ocular myopathy (mimicking Duane’s syndrome), heterochromia
Epilepsy (10%), sometimes associated with ipsilateral brain changes on
MRI (5%)
Vitiligo, hair depigmentation/hyperpigmentation (20%)
Brain MRI abnormalities-usually ipsilateral but sometimes cintralateral
in grey and white matter
(Practical Neurol., 2006;6:185-8)
- 2006年神経治療学会から
以下は口演のメモを元にしていますので、抄録集とは異なっているかもしれません。
愛媛大学・創薬治療内科・神経内科からは、HAM患者へのステロイドパルス療法で髄液ネオプテリンが治療マーカーとなることが報告されました。感覚障害はパルスで改善。ネオプテリンと予後との関係は不明。改善度との相関はなかった。未治療例ではマーカーにはなりうるが、治療後にはネオプテリンは動かないのでマーカーにはならないそうな。
井上教授が座長をされた、シェーグレン症候群のセッションでは、MSあるいはOSMS/NMO/LCL-MS(面倒ですが、少しづつ異なりますが)との関連が問題となることが改めて明らかとなりました(会場ではあまり盛り上がりませんでしたので、MSって国内では議論することも難しいことが良く判ります)。
名古屋大学の森先生は、シェーグレン症候群に伴うpainful sensory neuropathyに対するIVIgの治療効果を報告。シェーグレン症候群でのataxic
neuropathyへのIVIgの有効度は23%。painful sensory neuropathyやpolyradiculoneuropathyは4例ずつでしかありませんが、100%有効。疼痛にIVIgは有効だが、一過性かもしれない、と。
千葉大学・根本先生からは、75歳以上(プログラムでは70歳)の高齢発症MGへの治療について報告。一般的に、胸腺摘出術で予後は良好で、87歳発症例に対しても手術を行い、良好な結果が得られた、と述べました。また、同大の川口先生は、胸腺腫非合併眼筋型への胸腺摘出術の効果を報告。1年以上経過した眼筋型75例中17例で手術を施行し、うち8例で過形成。手術未施行例では10%が全身型に移行。手術しても眼症状の改善はないが、seropositive
MGなら全身型への移行を阻止できる。subclinicalに全身型である場合は是非手術すべきである、と。ステロイドだけでも全身型への移行を阻止できるかもしれないが、副作用が必発。
信州大学からは、MSでのIFNβ1bによる皮膚病変について報告がありましたが、注射部位から離れた下顎や前腕、肩に発赤、硬結が出現し、IFNβ1b中止で消失した例が示されました。これはpaniculitisで、Lupus
erythematosis profundusであった、と。
東北大学からは、NMO IgG陽性のOSMS患者6例への単純血漿交換の効果が報告されました。週に2-3回施行。6例中3例で効果があり、脊髄MRIでのT2病変の改善だけでなく、EDSSが変化したそうです。2回目までには効果が判るそうな。再発回数が多い方が効果があるようです。特に、ステロイド依存例が有効なようです。
当院の佐々木智子は、ステロイド依存性MSのまとめを報告。また、小森美華はMitoxantroneの自験例のまとめを報告。いずれも大部分はLCL-MSであったことが注目されます。