2006 年 3月号

  1. グリア細胞の核に対する抗体
  2. 進行期MSの本態
  3. MSのMRI診断基準
  4. PLP1遺伝子変異によるPPMS
  5. パーキンソニスムを呈したMS
  6. INFb1aでneuropathy
  7. アフリカ系アメリカ人のIFNの効果
  8. MS患者の予期せぬ死因
  9. 新しいhelper T細胞
  10. MS Forum
  11. 第10回神経感染症学会
  12. Snake-eye appearance
  13. 交感性眼炎の機序
  1. グリア細胞の核に対する抗体はSCLCが関連した、paraneoplastic neurological syndrome、特にLEMSと関連している、という報告がGraus & Dalmauから出ています(J. Neuroimmunol., 165:166-71, 2005)。この抗体は免疫組織学的方法のみで検出され、イムノブロットでは抗原を同定できません。3次元構造に依存しているのか・・・。これでは、抗原の詳細を解析することが困難ですね。
  2. 進行期MSの本態
    SPMSやPPMSの治療が問題となっています。脳障害の機序は再発と進行期とでは異なっていると考えられています。その根拠は・・・
    1. 病初期での再発頻度が進行期の発症時期に影響するけれども、障害の進行は進行期の発症前後の再発に影響を受けない(Brain, 126:770-82, 2003; Neurology, 62:601-6, 2004)。
    2. 免疫抑制剤や免疫調整剤は急性期や再発時では有効で、白質での新しい造影病変の形成を抑制できますが、進行期患者ではほとんど影響を与えません。  

    進行期患者、特にPPMSでは白質に新しい病変が形成されたり、造影病変が見いだされることは稀ですが、normal-appearing white matter (NAWM)でのsignal異常や進行性の脳萎縮が認められています。Waller変性による軸索変性だけでは、このような瀰漫性の変化は説明できません。また、上記の所見は巣状の白質病変では説明できないので、巣状白質病変では進行期の病変を説明できません。そこで、進行期MS患者で何が起こっているかをLassmannらが解析しました。

    慢性期では全脳に及ぶ炎症性病変がおこり、これと関連してcortical demyelinationとNAWMでの緩徐進行性の軸索障害が重要で、これらが進行期の本態であることを報告しています(Brain, 128:2705-12, 2005)。
  3. MSのMRI診断基準として、Barkhofらの報告(Brain, 120:2059-69, 1997)が有名で、McDonaldの診断基準の元にもなっていますが、MS研究者以外には意外に知られてはいないようなので、ご紹介します。

    Dissemination in spaceの基準(three of four of the following)ですが、欧米でMSのMRI所見として何を重視しているかが良く判ります。
    1. At least one Gd-enhancing or nine T2 lesions
    2. At least one infratentorial lesion
    3. At least one juxtracortical lesion
    4. At least three periventricular lesions (Ann. Neurol., 52:47-53, 2002)

  4. PLP1遺伝子変異によるPPMSという母・息子例の報告があります(Ann. Neurol., 58:470-3, 2005)。部位はLeu30Arg(c.89T>G)。臨床的にも放射線学的にも通常のPPMSとは区別が付かないそうな。自己抗体はおそらくは陰性なのでしょうが、記載はありません。しかし、記載のある母親ではCSF のIgG合成は亢進しており(5.9 mg/day; ref rangeは0-3)、IgG indexも高値であり(0.79 mg/day; 0-0.6)、OCBも陽性です。

    この検査所見に関しては、考察の最後にふれられていて、”contrary” phenomenonで、PMDの病態に炎症が関与していることを示唆している、と。PLP1遺伝子変異によるPelizaeus-Merzbacher disease (PMD)やspastic paraplegia type 2 (SPG2)は伴性劣性遺伝子形式をとりますが、heterozygousの女性が発症することがあるのは他の遺伝子疾患と同じ。また、遺伝子変異により重症度が異なり、その程度は一般には、症状の強い順に、connatal PMD>classical PMD>complicated SPG2>pure SPG2と言われています。
  5. パーキンソニスムを呈したMS
    基底核や視床下部が傷害される頻度の割には少ないとされていますが、MSではあらゆる不随意運動を呈しうることが判っています(Movement Disord., 10:418-23, 1995)。2002年までに8例ですがパーキンソニスムを呈したMSが報告されています。9例目がArgentinaから報告されています(Movement Disord., 18:108-10, 2002)。

    復視で発症した48歳女性で、2年後に歩行障害、静止時振戦、無動、軽度の固縮、hypophonic voiceが出現。CSFのOCBは陰性。経口ステロイドにてパーキンソン症状は劇的に改善。文献的にはステロイドに反応することは一般的ですが、levodopaにはごく一部でしか反応しないようです。
  6. INFb1aでneuropathy が出現、という6例の報告がIsraelからでています(Neurology, 65:456-8, 2005)。うち5例では薬剤の中止で改善。ところが、1例でIFNb1bを再投与したところneuropathyが再び出現し、IFNのタイプによる特異性がないことが判明。今まで、IFNbによるRaynaud現象とか、亜急性の皮膚エリテマトーデス、自己免疫性肝炎、自己免疫性甲状腺炎が報告されてきましたが、基本的には元々存在していた病態が表に出てきたもの、と考えられてきました。

    従来、IFNaによる副作用としてNeuropathyが知られてきましたが、機序はともかく、IFNbでも出現しうること、国内で販売されているIFNb1bでも起こり得ることが示唆されました。奇妙な現象としては、IFNbはimmune-mediated neuropathiesの治療にも使えることで、似たような現象として、cyclosporinがSLEを増悪することがある、ということが紹介されていました。
  7. アフリカ系アメリカ人のIFNの効果
    北米とヨーロッパで行われた、IFN1aの30mg週1回の筋注と44mg週3回の皮下注について比較する、randomized controlled studyの容量比較試験(EVIDENCE)の副産物として、米国の白人とアフリカ系患者の効果を比較した結果が報告されています(Arch. Neurol., 62:1681-3, 2005)。もともとアフリカ系アメリカ人は白人に比して、経過が重篤であるといわれてきました(Neurology, 63:2039-45, 2004)。アフリカ系では白人に比して、再発がより多く、IFNの効果がより劣っていることが示唆されました。
  8. MS患者の予期せぬ死因 についての報告が米国メリーランド州から出ています(Am. J. Forensic Med. Pathol., 26:244-9, 2005)。なんで法医学雑誌なのかというと、刑法がらみの「危ない死」も含まれているからでしょうね。著者はなぜか、Johns Hopkins Univ.の方。

    1982年から2004年までの50例の剖検例を対象に検索。うち、7例は生前MSとは診断されていなくて、病理解剖で初めて診断されたケース。意外に多いものですね。死因の42%は神経症状に関連したもので、9例はMSに直接関連した原因で、視床下部や脳幹の病変が原因と考えられました。残る12例はMSによる、たとえば運動機能障害により湯船に落ちたとか、positional asphyxiaあるいは誤嚥によるもの。28%は神経症状に関連していない原因、たとえば動脈硬化性心血管疾患や肺栓塞、代謝疾患によるもの。30%は外傷、中毒などにより死亡。50例中24例は事故か殺人、自殺、あるいは原因不明による死亡。組織学的には多くの場合は活動性はありませんが、15.6%で慢性活動性脱髄病変が主に大脳半球に認められています。心肺機能の中枢での病変が死亡原因となっていることもあり得ることが示唆されました。  

    ところで、この研究の対象となった患者さんたちの民族的背景は、African-Americanが21例、白人は29例で、白人に圧倒的に多い疾患であることを考えますと、いくら黒人にNMOが多く、ADLが悪いとしても、この数字は奇妙な印象を与えます。ちなみに、Maryland州での比率は、African-Americanが64%、白人は28%。黒人の方が貧しいでしょうから、病理解剖をする対象自体にそもそもバイアスがかかっているのかもしれません。  

    このグループは、この期間に2例のNMO女性例を経験していますが、NMOはMSではないとして、今回の研究対象から外しています。  
  9. 新しいhelper T細胞
    従来、IFN-gを産生するTH1細胞とIL-17を産生するTH17細胞は共通の前駆細胞に由来すると考えられてきましたが、TH17細胞は独自の前駆細胞由来であり、この分化にTH1細胞とTH2細胞由来のIFN-gとIL-4とが両者ともTH17細胞の分化を抑制する、という新しいモデルが提出されました。一方、成熟したTH17細胞はIFN-gやIL-4による抑制を受けにくくなるそうな。それゆえ、自己免疫疾患や炎症性疾患の治療の標的としては、TH1細胞やTH2細胞ではなくて、TH17細胞そのものでなければならない、ということになります。TH17細胞の分化を誘導するIL-23と抗IL-4と抗IFN-gのcombinationは、TH17細胞を誘導する有効なcocktailということになります。逆に、抗IL-17抗体を投与することで、病気が成立した後でもEAEを抑制できることが示されています(Nat. Immunol., 6:1069-70, 2005)。  

    IL-17は好中球の増殖や分化、chemotaxisに関与しているのでproinflammatory cytokineと言われていて、活性化されたCD4陽性あるいはCD8陽性細胞から分泌されます。多発性硬化症では、末梢血や脊髄液中(Mult. Scler., 5:101-4, 1999)の単核細胞やgene-microarrayで脳組織(Nat. Med., 8:500-8, 2002)でIL-17の発現が増加していることが示されています。脊髄液中のIL-17は、CMSよりOSMSで増加していることが九大から報告されています(Brain, 128:988-1002, 2005)。さらに、病理学的にOSMSの脊髄では壊死組織にmyeloperoxidase陽性の好中球が浸潤していることが示され、CMSで認められるようなTh1細胞の活性化に加えて、OSMSではIL-17/IL-8系がとりわけ脊髄病変形成に重要であると強調されています(Brain, 128:988-1002, 2005)。また、ラットでのEAEの経過に影響を与えると言われています(Exp. Neurol., 163:165-72, 2000)。
  10. MS Forum が2005年11月5-6日、学会直前のシドニーで開催されました。150名ほどのアジア・オセアニアのMS研究者が集まりましたが、会議終了間際には半分以下に。日本人だらけだったことが印象的。観光に行っちゃったのでしょうか・・・  

    世界各地でMS有病率が増加しつつありますが、SingaporeのDr. Ongによりますと、Taipeiでは10万人あたり0.8だったのが2004年には1.9になったそうです。アジアでの唯一の例外はHong Kongで、1989年に0.88だったのが2002年には0.77に減少している、と。理由は不明です。これは妄想かもしれませんが、HKには中国から流入していることも影響しているのでしょうか・・・  

    東北大の藤原(ちなみに、Fujiharaと読みます)助教授は、NMO/OSMSについての最近の研究成果をまとめて発表されました。内容が豊富で未発表データも示されましたが、充分にはfollowできませんでした。そのなかから・・・  

    OSMSの最初の論文は、今はもはやない雑誌ですが、Aoyama, T.: J. Tokyo Med. Assoc., 5:827-30, 1891.なんだそうです。Devicが1984年に報告した論文では14/17例がmonophasicでこの場合は男女ともinvolveされますが、recurrentの場合は女性が多く罹患。

    まだ論文にはなってはいないようですが、班会議でOSMSの脊髄病変を報告しています。
    OSMS CMS
    cavity formation & gray matter involvement 100% 0%
    vascular changes wall thicking & hyalinization 100% 0%
    deposition of Ig & C9neo 87% 13%
    infiltration of neutrophils & eosinophils 17% 0%

    piaやsubpial tissue, microvesselと反応するNMO IgGの出現頻度は、 OSMS 56% NMO 76%

    脳病変を有するOSMS/NMOの報告としては、
    1. Acute transverse myelitis with brain/brainstem (large) lesions (Fukazawa, 2003)
    2. OSMS with a cavity cerebral lesion (Nakashima, 2005)
    3. NOM IgG positive case with brain lesions (intractable hiccup & nausea with periaqueductal lesions)(Nakashima, 2005) があり、病変としては、extensive & bilateral cerebral lesions, hypothalamic lesions, brainstem lesions。

    OSMSとNMOの関係について、理論的には次のような可能性があるとし、
    1. OSMS=NMO
    2. OSMS=NMO+MS (OS presentation)
    3. OSMS, NMO, classical MSがborderlessに。
    どれであるかは不明だが、NMO IgGが手がかりになるかも。NMOやOSMSでは陽性になるけれども、OS presentationのMSでは陰性になる、と。  

    マレーシアのDr. Chongはアジア各国から250例以上のMRIを集めて検討。MRI上、OSMSとCMSとでは、大脳、脊髄とも区別が付かないことを紹介し、OSMSでも大脳MRIではsmall lesionが多発している、と。分布もCMSと変わらず、脳室周囲や皮質・白質境界部でも存在し、ovoid lesionも。CMSでも脊髄病変は同じように存在しているという。  

    北海道・西円山病院の深沢先生は、2004年の全国調査でのOSMSのMRI病変を解析し、3椎体以上の脊髄病変が存在しているのは32/158例(20.3%)認められた、と。途中の大部分はfollowできませんでしたが、結論は3椎体以上の脊髄病変を有するOSMSと有さないOSMSとを比較検討すると、HLA DRB1*1501の陽性率がそれぞれ16.7%、62.5%と差があり、脊髄液中のOCB陽性率も12.5%、60%とこれも差があって、後者はCMSのearly stageではないか、と。  欧米でMcDonaldの新しい診断基準が検討されていて、2005年中に出版されるようです。
  11. 第10回神経感染症学会

    水澤・東京医科歯科大教授による会長講演のテーマは、変異型CJD。今年の2月に国内で初めての変異型CJDが発見されました。この患者さんは単に国内初というだけでなく、診断基準を巡っても様々な問題を提起することとなりました。その詳細について、紹介されました。  この方は、1990年に英国にわずか24日間しか滞在しておらず、このような短期間でも感染しうることが示唆されました。さらに、この方は通常のvCJDでは認められない、脳波でPSDが認められ、MRIではPulvinar兆候が途中で消失していて、診断の難しさを物語っています。今回の診断は、弧発例としても非典型的だということで、苦労して剖検したことで明らかとなりました。講演では、剖検まで努力してたどり着いた主治医3名の氏名は伏せられましたが、これらの人々の努力のたまものでありましょう。ちなみに、Pulvinar徴候はT2強調画像での所見を言い、coronal sectionでのCut off sign(同じ所見をaxial sectionで見ると、Hockey stick signになります)はFLAIR画像での定義で、撮影法が異なって同じ所見が認められても、本来は言わないそうです。  

    日本では2001年に初めてBSEが発見されましたが、その後も発見は続いており、2001年には3頭、2002年には2頭、以下、4頭、6頭、今年はすでに5頭報告されているそうです。当初、密かに埋められるなどして処分された牛の中にもいたはずで、このときにきちんと検査されていればBSEの頻度が明らかになっていたはずです。  

    また、PrPSCの形成や蓄積には依存せずに神経細胞の変性が起きると言われていて、この機序は不明であることが強調されました。会長はまとめのスライドでvCJDの突然の出現は、自然の摂理への警鐘と思う、と。  

    大阪医大の中嶋先生は「単純ヘルペス脊髄炎」と題して教育講演。臨床像は、
    1). 急性上行性壊死性脊髄炎、または脊髄根神経炎(典型例)
    2). 頚胸髄レベルの横断性ミエロパチーで発症し、非上行性に経過
    3). 再発例  
    鑑別としては、水痘・帯状ヘルペス、EB、HHV-6,HAM、アトピー性脊髄炎、ADEM、MS、抗リン脂質抗体症候群、血管炎による脊髄炎やミエロパチー。  
    確定診断には、髄液中の抗体の有意な上昇、あるいは髄液からのHSV DNAの証明が必須。  
    Elsberg症候群というのが知られています。仙髄領域の神経根による感覚障害が主体。原因の頻度としては、HSV 2>1。  治療として、自験例では8/9例でステロイドが使用されており、7/10例で対麻痺などの後遺症が残存。  Balb/cマウスにHSV 2ウイルスを皮下注すると、対麻痺が起きて死亡するんだそうですが、IL-4あるいはIL-10を投与すると、死亡率が増加するそうです。これは、Th1への分化シフトが抑制されることによるもの。Th2が脊髄炎に重要。  

    自治医大の中野先生は、HSV脳炎の病理学的特徴として、ウイルスが血管内皮細胞に感染するために出血しやすいことと、ウイルス自体が細胞に感染して細胞をnecrosisに陥らせるためにnecrotic lesionが起きやすいこと、と。  

    富山医薬大ウイルス学・白木先生は、治療を中心に講演されましたが、刺激的な内容に日大の亀井先生をはじめ、多くの方が驚愕されたようです。その内容とは・・・  細菌とは異なり、単純ヘルペスウイルスの増殖には時間がかかるので、一過性に血中濃度を上げても効果が期待できない可能性があって、難治例を生む背景ともなる。アシクロビルの半減期は短いので、健常人なら1時間の点滴でも良いだろうが、免疫不全の患者さんでは4から5時間かけて点滴し、充分な時間暴露させないと効かない、と。腎結石との関係もあって、アシクロビルは水に溶けにくいので、ピークを上げるよりゆっくり上げた方がこの点でも理にかなっているそうです。  

    ヘルペスウイルスはHHV8まで8種類がヒトに感染する。マウスの皮膚に感染させる場合、側腹部の毛を剃って傷を作り、ウイルス溶液を塗ると、帯状に水疱を形成するようになるそうな。葛根湯はTLRを誘導してサイトカインを活性化させ、アシクロビル並みの効果がある。ラットの皮膚病変を改善させるそうで、アシクロビル抵抗性や何らかの理由で使用できない場合、助けにはなるかもしれません。  

    日大・亀井助教授はreal time PCRあるいはnested PCRで診断した、47例の単純ヘルペス脳炎自験例での再燃・遷延化例について解析し、遷延化例は転帰不良群と結果的に一致し、初回治療が重要となる。特に、IL-6を抑えるために、急性期のステロイド治療は重要。また、白木先生が提案されたように、点滴時間を長くすることも一つの方法かもしれなし、と。

    東芝林間病院・瀬川先生はMollaret髄膜炎について解説。Mollaret髄膜炎は再発を繰り返すが予後良好で回復してしまう無菌性髄膜炎ですが、最近ではHSV-2との関連が指摘されています。他のウイルスに比して再発しやすい理由として、
    1). HSV-2は成人になって初めて遭遇し、成人まで免疫が獲得されていない。
    2). 感染後も特異抗体が産生されず、髄腔内抗体産生もなく、むしろ帯状疱疹抗体が上昇し、リンパ球幼若化反応が低下するなど、ウイルスによる宿主の免疫回避反応がある。

    抗HSV-2抗体は1.9から6.7%しか成人では保有していないが、環境の影響を受け、風俗産業従事者では50%以上の抗体保有率を持っているそうです。年々、抗体保有率は減少している。IgG産生が遅かったり、IgMが変動しない患者さんも。初感染でも免疫が成立しないことも。Mollaret髄膜炎患者さんでは、HSV-2 PCRが陽性でも、髄液の抗体が陰性のことはよくある。血清の抗体価が変動しないことも。性器ヘルペスの症状はない。長期間、再発する場合はアシクロビルやバラシクロビルの長期内服が試みられている。20年間に20回も再発していた患者さんにACV 800mg/dayで予防し、4年間、再発していない例があるそうです。Mollaret髄膜炎はウイルス非特異的で、Echo 30やWest Nileでも起こり得るそうです。  

    結核性髄膜炎の診断は容易ではありませんが、このたび、nested PCRが外注できるようになりました。日大医学部先端医学講座・中山助教授の技術指導の元、メディカルジャパン・ラボラトリーで可能に。従来のsingle PCRでは1000コピーが検出限界でしたが、これで10コピーに。1コピーでも淡いバンドが出ていました。  

    EBウイルス脳炎では、ウイルスがどの細胞に感染しているのかは、治療をする上でも重要なのですが、確定的ではないようです。本来の標的はB細胞ですが、神経細胞やグリア細胞にも感染しうるようです。東京医科歯科大からganciclovirが著効したEBウイルス脳炎2例と神経根炎1例とを報告しましたが、理論的にはリンパ球のEBウイルスの増殖にはganciclovirは効かないはずで、著効したのだとすれば神経細胞やグリアに効いたのだろう、と名古屋大の(名前が判りませんでしたが)方がコメントされていました。  


  12. Snake-eye appearance

    cervical spondylosisやOPLLによるcompression myelopathyの際に、髄内に認められる、左右対称性のT2 high intensity lesionのことで蛇の目のように見えることから。この所見は、機械的な圧迫と静脈性梗塞によりventrolateral posterior columnのcentral gray matterの中心部にcystic necrosisが形成されるため。当科の検討会で澤田臨床研究部長から紹介があった所見。愛知医大から予後との関連について検討した結果が報告されていて、この所見は手術後の予後不良を示唆する現象だそうです。(J. Neurosurg., 99(2 Suppl):162-8, 2003)これはabstractしか見ていませんので、詳細不明。


  13. 交感性眼炎の機序

    古典的な病態です。隔絶されていた自己抗原が外傷や手術によりリンパ球に自己抗原が暴露されて、健康だったはずの対側の眼も傷害されて両眼を失明してしまう、という恐ろしい病気。肉芽腫性の汎ぶどう膜炎。以前は車のフロントガラスによる強角膜裂傷が多かったそうですが、強化ガラスの導入などで最近では術後が多くなっているそうな。多くは受傷後あるいは術後2-3週間から2ヶ月以内に発症。時に数年に及ぶことも。本態は自己免疫疾患で、ぶどう膜のメラノサイトがTリンパ球に感作されることによります。Vogt-小柳-原田病と同じようにHLA-DR4との関連が指摘されています。治療は、ステロイドパルスなどの副腎ステロイドホルモン療法。減量により再燃することも。最近では適応が少なくなりましたが、なお、受傷後2週以内に罹患眼を摘出することも。交感性眼炎発症後に眼球摘出することで、被交感眼の炎症が収束することもあるそうで、MGでの胸腺摘出術を連想させますな。(医事新報, 4230, 95-6, 2005)