2005年12月号

  1. Paraneplastic PSP
  2. Lymphomaがパーキンソニスムを呈しうる機序
  3. MSの血漿交換の効果は脳病理
  4. MSの慢性疼痛
  5. 日本初の第2の免疫抑制剤 IVIGの副作用
  6. Cerebral malaria
  7. 見直された皮下持続点滴法
  1. Paraneplastic PSP
    Paraneoplastic parkinsonismは3例(多発性骨髄腫、乳癌、気管支癌)しか報告がない。最後のJankovic例はPSP症状。

    75歳男性。2年前に前立腺癌stage 1と診断され、放射線療法で完全治癒。化学療法や制吐剤などは使用せず。次第に動作が緩慢となり、昼間の眠気、記憶障害が出現。3ヶ月後、40゜Cのspike feverが出現。次第に不安定となって、易転倒性に。発症5ヶ月後には寝たきりに。発症7ヶ月後にはしばしば答えることもできなくなり、垂直性、特に上方への核上性麻痺に。右手はジストニアを呈し屈曲。体幹の固縮、四肢の寡動、支持があっても立てなかった。振戦やミオクローヌスはない。UPDRSは51/56、PSP rating scaleは64/100。顎反射は亢進せず、下肢の深部腱反射は消失。  軽度の貧血、ESR: 125 mm/hr, CSF: 30/3, TP: 109mg/dl (CSF所見は8ヶ月後の再検時には正常化) NCS: demyelinating sensori-motor neuropathy MRI: symmetrical white matter microvascular ischaemic changes and mild atrophy Madopar 125 mgで支持があれば数歩歩けるように。効果は一時的で、2週間後には元に。発症9ヶ月後、akinetic-rigid syndromeに。 CT thorax: 縦隔リンパ節腫大 Mediastinal biopsy: large B cell lymphoma  発症11ヶ月後に死亡。解剖せず?
  2. Lymphomaがパーキンソニスムを呈しうる機序
    1. 中枢神経内での浸潤
    2. 薬剤性
    3. 日和見感染
    4. metastatic infarctions 本例はいずれでもない、と。
    LymphomaとPSPとの関連がparaneoplasticと考えた根拠
    1. 発症から死亡まで11ヶ月しかなく、進行が急。
    2. demyelinating sensori-motor neuropathyの存在。
    3. 他に明らかな説明できる理由がない。
    non-Hodgkin’s lymphomaで出現しうる傍腫瘍性神経症候群-文献例
    Myopathy
    Progressive external ophthalmoplegia
    Cauda equina syndrome
    (Parkinsonism & Related Disorders, 11:187-91, 2005)
  3. MSの血漿交換の効果は脳病理 に依存する、という当然といえば当然ですが、きれいな報告がMayo Clinicらの共同研究で明らかになりました(Lancet, 366:579-82, 2005)。  

    欧米のMS患者では急性増悪した劇症型の45%はステロイドに反応せず、血漿交換で改善する、と言われています(数字が大きいですが、fulminant attacksが母集団)(Weinshenker, B., “Multiple Sclerosis: tissue destruction and repair, 2001:267-74”)。  

    脳生検を行い、2週間で隔日に7回血漿交換を施行した19例を解析。すると、効果と脳病理とは驚くほど対応していて、抗体と補体が沈着する、Pattern IIの10例はすべて改善が認められ、他のPattern IやIIIの患者、それぞれ3、6例はすべて効果なし。この効果はall or noneで、平均3日で改善が認められています。  

    ここでは対象から除外されていますが、NMO=OSMSも当然、血漿交換は効果が期待できます(Neurology, 58:143-6, 2002)。
  4. MSの慢性疼痛
    68/99MS患者(clinically or lab def by Poser)に疼痛あり。 
    17例 neurogenic pain
    56例 non-neurogenic pain
    7例  両者  
    疼痛の重症度とADL, EDSS, 年齢、罹病期間、病型と関連はないが、特に女性では疼痛の 重症度は不安や鬱と関連あり。  

    Neurogenic painの71%はdysaesthetic pain (burning legs or foot)、29%はparaesthetic pain (sensation of pins & needles often associated with numbness)  
    Non-neurogenic painの73%は少なくとも1つの骨格関連の疼痛で、
    31例は大関節痛、
    22例は背部痛、
    3例は下肢筋痛
    その他:14例が頭痛、5例は内臓痛、3例はpainful leg spasms
    治療:
    抗炎症剤 69.2%
    鎮痛剤 42.3%
    筋弛緩剤 19.2%
    抗痙攣剤 15.4%
    麻薬 11.5%
    その他 19.2% (鍼、マッサージ、physiotherapy or chiropractic medicine) (Mult. Slcer., 11:322-7, 2005)
  5. 日本初の第2の免疫抑制剤 IVIGの副作用
    スイスNovartis社は10月1日、三菱ウェルファーマから導入した免疫抑制剤FTY720が、MSを対象としたPhase II臨床試験で有望な結果が得られたと発表。FTY720は、冬虫夏草の一種であるlasaria sinclairii菌が産生するミリオシン(myriocin)をリード化合物として、化学修飾により創製された化合物。細胞障害を引き起こすT細胞に直接作用することが特徴で、既存の単剤もしくは既存の免疫抑制剤と併用することで、臓器移植の拒絶反応抑制や自己免疫疾患などの治療薬になると期待されている製剤だそうな。(Med Wave, 2005/10/4より)

    IVIGの副作用免疫グロブリン製剤はアルコールで抽出されていますので、たとえHIVウイルスが混入していてもこの段階で「消毒」されます。しかし、アルコール耐性のウイルスは不活性化されずに残存します。それゆえ、薬剤の解説書には、免疫グロブリン製剤では、伝染性紅斑(りんご病)の原因であるヒトパルボウイルスB19は、不活化されないことが明記されています。

    他にどんなウイルスがアルコールに強いのでしょうか?「アルコール消毒に対するウイルスの抵抗性」という記事が出ていました(医事新報, 4245:98-9, 2005)。  

    コクサッキーやエコー、エンテロウイルスなどのピコルナウイルス、ロタウイルス、胃腸炎の原因となるカリシウイルスが抵抗性が強く、尖圭コンジロームの原因となるパピローマウイルスやアデノウイルスも中等度の抵抗性があるそうです。つまり、これらのウイルスが供血者の血中に存在していると、そのまま残存する可能性があることが判ります。
  6. Cerebral malaria
    全世界で毎年2700万人がマラリアで死亡している。 地球上の住民の40%はmalaria-endemic regionsに居住している。ヒトに感染するmalariaは Plasmodium falciparum, Plasmodium vivax, Plasmodium ovale, Plasmodium malariaeの4種類。潜伏期は6-16日。  Cerebral malariaはmalaria感染例の2%で出現し、
    その定義は、
    1. 局所症状のない昏睡
    2. 末梢血塗沫に原虫が見出される
    3. 昏睡の原因が他にない
     
    症状は
    prodromal fever, headache, myalgias in adultで、gastrointestinal symptoms in children。その後、呼吸不全、低血圧、異常姿勢 (decorticate, cecerebrate, opisthotonis), disconjugate gaze, 脳神経麻痺、反復性痙攣 (40%以上でGTCが出現), nonconvulsive ststus epilepticusを呈する。通常、突然の痙攣と意識障害(lethargyからcomaまで)で発症を呈し、通常、神経学的には両側深部腱反射亢進が認められる。時に、片麻痺、単麻痺、脳神経麻痺、網膜出血、不随意運動も。眼球はdivergentとなるが、oculocephalicやoculovestibular reflexesは正常。多くは、24-72時間持続し、死亡か完全寛解。髄膜刺激症状が認められることは少ない。CSFでは蛋白が中等度に増加し、軽度細胞増多が認められる。重度の昏睡例ではCSF中の乳酸が増加。頭部CTは正常(Curr. Treat. Opt. Neurol., 6:125-37, 2004ほか)  

    原因
    The cause of cerebral malaria is not well understood. Currently, there are two major hypotheses , such as mechanical and the humoral hypotheses.
    1. The mechanical hypothesis asserts that a specific interaction between a P. falciparum erythrocyte membrane protein (PfEMP-1) and ligands on endothelial cells, such as ICAM-1 or E-selectin, reduces microvascular blood flow and induces hypoxia. However, this hypothesis is inadequate in explaining the relative absence of neurological deficit even after days of unconsciousness.
    2. The humoral hypothesis suggests that a malarial toxin may be released that stimulates macrophages to release TNF-a and IL-1 that may induce additional and uncontrolled production of nitric oxide. Nitric oxide would diffuse through the blood-brain barrier and impose similar changes on synaptic function as do general anesthetics and high concentrations of ethanol, leading to a state of reduced consciousness. The biochemical nature of this interaction would explain the reversibility of coma.  

    おまけ-MRI findingsとADEMとの関連
    In three cases of cerebral malaria, MR imaging disclosed either cortical infarcts (one case) or hyperintense areas of white matter (two cases) on T2-weighted and fluid-attenuated inversion-recovery sequences. These white matter abnormalities were, in one case, sharply limited, symmetrical, hyperintense, and unenhanced; in the other case, they were diffuse, hyperintense, and had a more limited focus. The diffuse hyperintensity was probably due to edema, whereas focal lesions were probably associated with gliosis. (Cordoliani YS, ,et al. MR of cerebral malaria. AJNR Am J Neuroradiol., 19(5):871-4, 1998.)  

    しかし、Postmalaria ADEMという報告もあります。
    1. Mohsen AH, et al. Postmalaria neurological syndrome: a case of acute disseminated encephalomyelitis? J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2000 Mar;68(3):388-9.
    2. Koibuchi T, et al. A Acute disseminated encephalomyelitis following Plasmodium vivax malaria. J Infect Chemother. 2003 Sep;9(3):254-6.これは東大医科研からの報告。

  7. 見直された皮下持続点滴法
    ベテランのナースの話では、昔やったよね、というお話ですが、筆者の研修医時代、血管切開をして中心静脈カテーテルを入れていた時代、こんな方法は前線の病院でも教えてはいませんでした。最近、欧米で見直されているようです。血管のもろい高齢者にはむしろ何回も刺されずにすむ方法。  

    腹壁、胸壁、背部の皮下に23Gの翼状針がよい、と記載されていますが、体動などでの危険性を考えますと、個人的経験からも刺入部位は腹部で、針は24Gの留置針が良いように思います。皮下水腫ができますが、揉めば良い、と。長期間の輸液ならば、4日ごとに差し替え、速いと痛いので、40ml/時位の速度で。1000ml以上の輸液が必要なら、2ヶ所のルートを確保。もちろん、pHが中性からずれている溶液や細胞毒性の強い薬剤は入れられませんが、とりあえずの水分補給を目的とした、維持液は問題ありません。糖液は吸収が悪いので使わない方がよいそうです。(レジデントノート, 7:813-9, 2005)